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2006年3月 8日 (水)

sinaasappel

近畿地方にお住まいのねこやなぎさんからご質問をいただきました.

Q:
果物のオレンジはオランダ語ではなぜオレンジと似ていない別の単語で表されるのでしょうか? 旧オランジュ公国の紋章には果物のオレンジが描かれているのに,何故なのかどれほど調べても分りません.オランダに果物のオレンジが入ってきたのは時期が全く違うのでしょうか?

A:
英語のオレンジ(orange)に対応するオラニエ(oranje)という言葉がありながら,なぜ果物のオレンジをオランダ語ではシナースアプル(sinaasappel)というのかということですね.

たいへん興味深いご質問なのですが,わたしのところにも自信を持ってお答えできる材料がありません.

わたしはオランジュ公国の紋章も見たことがなく(現在のオランジュのものはこれ),それがいつ頃成立したものかも不勉強で存じません.オラニエ・ナッソウ家紋章や,ウィレム3世イギリス遠征軍の旗にはそれらしいものが見えないように思います.

あるいはすでにお調べになったかもしれませんが,語そのものはドラヴィダ語が起源で.そこから柑橘類の木,実といった意味のサンスクリット語になり,ペルシャ語,アラビア語,イタリア語(arancio)を経て,フランス語に入り,オランジュという地名の影響を受けて変形(a→o)したあと,フランスの北部に向かい,14世紀末,英語に入ったとのことです.現代スペイン語でオレンジを表すnaranjaは当時の様子をよく伝えている.

中国原産の植物そのもの(Citrus sinensis)も同じようなルートでヨーロッパに入り,広がっていったのでしょう.オランジュへはアラビア人がイベリア半島に持ち込んだものが伝わったようです.そうでなくてもプロヴァンスの「アルルの女」はギリシャ系であることが知られており,アラビアからギリシャをへて直接プロヴァンスへというルートもあるのかもしれません.オレンジ色はこのオレンジの実の色.

したがってオレンジとは独立に,プロヴァンスにはオランジュという地名があったことになりますが,この土地にはローマ時代にArausio(ケルトの水神の名)という都市があり,そこからOrangeが発生したもののようです.ナッサウ家のウィレムがシャロン家のオランジュ公領を相続したときにはおそらくこの土地に,オレンジとオレンジ色が深く結びついていたことでしょう.

さて,オランダ語のシナースアプル,あるいは俗称のアプルシーン(appelsien)はこれもフランス語を介しての命名のようですが,「支那の果実」というわけで,原産地を表している.ちなみにドイツの北部や東部でもApfelsineと呼ぶぶらしいし,ベラルス語,フィンランド語,デンマーク語,ノルウェー語,スウェーデン語はすべてこのアプルシーン系.

肝心のオランダに果物のオレンジが入ってきたのはいつかはよくわかりません.初期にはオランダではオレンジはもっぱら装飾品と考えられていたようです.甘い実の生るオレンジは寒いオランダではまともに育ちません(貴族の館などに見られるオランジェリというサンルームでの栽培は例外でしょう).果物として入ってきたときはスペインあたりから輸入されていたようです.そうすると敵国スペインから入ってくる果物にオラニエ公の名を冠するのをはばかられたのかもしれませんが,一般の人が自由に消費できるほど大量に輸入されるようになったのはひょっとすると20世紀に入ってからのことかもしれません.

あるいは,オラニエ家を国の守護者と仰ぐが故に,日本や中国の諱(いみな)のような感覚で,軽々しくその名を用いることを避けたのかもしれません.英語やフランス語では使われている「オレンジ」を果物ごときには使わない特別な理由があったのかもしれませんね.ちょうど江戸時代に徳川芋なんてものがなかったように.

お答えになっていませんが,わたしの想像をお伝えしました.今後もアンテナを張って気にしていようと思います.ねこやなぎさんのほうでおわかりになったことがありましたら,ぜひお知らせ下さい.

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コメント

ねこやなぎコトねこだましいさんのブログ「ねこだましいな日」(http://nekodamasii01.blog31.fc2.com/) に
「オレンジ、オランニェ、オランジュ その1~その3」として果物のオレンジとプロヴァンスの地名オランジュの関係その他が詳しく掲載されています.わたしが省略したことなどもきっちり調べて書かれていますので,関心のある方はぜひご覧になって下さい.


投稿: jasje | 2006年3月15日 (水) 17時54分

> ところでこの記事を私のブログで紹介させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?

どうぞご遠慮なく.

> 王室の名、スペインとの関係、気候、これら全てが理由なのかも知れませんね。

ええ,まず第一にこの果樹・果実をオレンジ(やオランジュ)と呼ぶのが世界の言語の中で必ずしも多数派でないということがあります.ロシア語やスカンジナビア諸語などヨーロッパの東北部ではアプルシーン(やその変種)が強い.オランダ語のシナースアプルもこれに連なるものです.どうしても英仏独のような大物言語を目にする機会が多いのでみんながオレンジと呼んでいる印象になりますが.

そこへもってきて,オランダでは王家の名がオラニエ・ナッサウだという特殊事情が重なっているのかも知れませんね.

投稿: jasje | 2006年3月10日 (金) 18時03分

稚拙な質問にもかかわらず大変丁寧にお答え下さり感激しております。

語源については一応調べたのですが余計に頭が混乱してしまい不躾かと思いましたが思い切って小橋さまにお尋ねしました。

王室の名、スペインとの関係、気候、これら全てが理由なのかも知れませんね。

ところでこの記事を私のブログで紹介させて頂きたいのですがよろしいでしょうか?

投稿: ねこやなぎコトねこだましい | 2006年3月 9日 (木) 06時49分

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